現場に聞く、イマドキのマーケティング
ゆるやかなビジネスパーソンの学びの場「opnlab」で「マーケティング」をテーマにとりあげた会を中心にレポートします。企業のマーケター、ベンチャーの経営者、公的機関の職員などが、課題をデジタルとアナログでバランス良く解決している事例を紹介していければと思います。
宣伝から本編へ~心を動かす動画マーケティング
opnlabは、「イマドキの動画マーケティング」をテーマに10/16、花王 本間充氏、ロボット 加藤雅章氏、ヤフー 志村一隆氏という、動画やマーケティングの最前線にいる3名を招いてトークイベントを開催しました。
宣伝とは異なる、見たいと思われる「動画」作りに企業が試行錯誤している実態や、
時間や表現の制限が無いWebならではの感情を動かす動画コンテンツが生み出されてきている現状などが紹介されました。
|「映像はコンテンツ領域からコミュニケーションへ」
ヤフー 志村一隆
かつて映像はプロの人が製作したコンテンツでした。いまでは、自ら映像を制作してYouTubeにのせたり、スクリーンがスマホになることでチャットも交えてコミュニケーションするという変化が生まれていると志村氏は指摘します。
映画は全部視聴することが前提のため、シナリオ重視で作られています。テレビは、いつチャンネルを変えられるかわからない受動的な視聴者に向け、一瞬で目を引くハプニングや、感動するドキュメンタリといったコンテンツが作られます。スマホはさらにシンプルで「バズる」ものが作られ、スクリーンが小さくなるほど刹那的な映像表現に向かいます。
印刷技術が生まれてから写真誕生まで300年、そこから映像が生まれるまで40年、さらにマスメディアが隆盛するまでには40年かかっていますが、この表現領域を、インターネットはわずか20年で経験しています。
今や広告はメディアではなく視聴者の行動データを買うと言われるようになっています。
ただ、視聴者の行動をもとにした、受けの良い部分だけを寄せ集めた番組は、記憶に残りません。
行動データばかりに依存するのではなく、拡大した表現形式を活用して、作り手のクリエイティブが広がる方向で動画マーケティングが発展していくことに、志村氏は可能性を感じると言います。
ヤフーにおいては知恵袋などの様々なコンテンツを動画化。特に志村氏はヤフーで多様なスクリーンをつないだ動画の仕掛けのプロジェクトに関わっているとのこと。
従来の映像で感動させてお金をもらうビジネスではなく、無料で映画を上映して物販するなど、全体のエクスペリエンスでマネタイズするような新たな映像ビジネスが動き出しました。
|「広告動画から本編動画をつくりはじめた広告主」
花王 本間充
はたして動画広告とは何を指すか。テレビCMとネット動画があり、ネット動画の中でも、CMと本編があります。今、企業はこの本編を作りたいし、実際に作ろうとしている、と広告主側の視点で本間氏は話しをはじめました。
テレビCMとネットの動画広告の特徴を比較すると、検索についてはテレビCMは検索できないけれども、ネット広告は検索が可能です。長さ(尺)は、CMは15秒、30秒と決まっていますが(ただし日本のローカルルール)ネットは制限はありません。
そして、CMは根本的に本編の合間に差し込まれるものですが、ネット動画は本編そのものです。
全日本シーエム放送連盟(ACC)で話題になった動画のひとつが本田技研工業が製作したもの。
アイルトン・セナが鈴鹿サーキットを走行した際のデータをもとに、そのエンジン音や走行軌跡を映像にしたCG映像です。全部の映像をテレビで流すことはできませんが、Webなら可能です。
またロッテのcafca(カフカ)のアニメ-ション動画は「子供が泣き止む」ということで評判になり、実際にお母さんが泣いている子供にスマホでカフカの動画を見せて落ち着かせるそうです。
いずれもネットで見て欲しいと考えて製作されたもので、企業はこのように自然流入を期待できる、映画で例えるならば本編を作りたいという想いが強くなっています。
花王では、2011年にタレント事務所の承諾を得てCMをすべてWebに公開したところ、期待していたほど視聴回数が多くなかった、と振り返ります。2012年はエッセンシャルボトルの4分ほどのアニメーションを作り、2013年にはロボットとサクセスの動画を製作。
しかし、Blendetecの動画のインパクトを出すまでにはいたっていません。
何年も同じおじさんがひたすらブレンダー、つまりミキサーでニコニコしながら、いろいろなものを混ぜていきます。混ぜるものは果物や野菜ではなく、iPhoneやiPad。
最近ではiPhone6 plusをミキサーに投入。この動画は単純なのですがファンも多く、実際つい見てしまいます。
花王では2014年に、改めて映像製作を理解するために、社内で勉強会を開いています。
かつては社内に映像の製作チームがありましたが、他の企業同様に広告代理店に全部任せた状態になってしまい、いまでは社内に映像製作のノウハウがないといいます。
押し付けがましくない見てもらえる映像をどのように作ればよいか、研究を進めています。
|「動画マーケティングの成功例としてのMOZU」
ロボット 加藤雅章
ロボットのミッションは、感情を動かす映像コンテンツを作ること、と語るのはロボットの加藤氏。STAND BY MEドラえもんやMOZU、寄生獣など数多くの映画、テレビCM、ドラマ、Web動画を製作しています。
ネットの動画広告の相談を受けると、よくこんな会話がでてくるそうです。
「ターゲットがテレビCMを見なくなったらしいから、動画広告作ってくれない?」
「バズるやつをお願いね。100万ビューとかすぐいっちゃうやつ。でもお金ないけど」
しびれます、と加藤氏は笑います。
製作サイドは、もちろん多くの人に見てもらうことを目指して作りますが「絶対にバズる」ということは誰も約束できません。
また知られないまま埋もれる動画も多いといいます。せっかくタレントを使って予算をかけて作っても、何の告知もせずにYou Tubeに置きっぱなしにして、そのうちタレントの契約期間が切れて非公開。視聴回数は思ったほど行かずに、最後に担当者がおこられるというケースもよくあると聞くそうです。
そのような中で、動画マーケティングの力を発揮する好例として映画の予告編を紹介しました。
ネットがあまり普及していない時代は「ぴあ」の出口調査などを参考にして映画を見に行きました。
今はWebで予告編を見て判断します。内容次第で映画に行くアクションにつながるかどうかが決まるからです。さらに、ネット上の予告編はSNSなどから期待値もひろえるので集客の予測が立てやすく、映画作りにも役立ちます。
特に、最近の映像コンテンツのマーケティングの成功例が「MOZU」です。
TBSとWOWOWの共同製作の同ドラマは、MOZU全体をもりあげるために、動画の置けるスペースを積極的に活用し大胆に本編20分をYou Tubeで公開してテレビ視聴を誘導しました。また、多く謎を残したままテレビのシーズン1が終了したMOZUは、シーズン2を会員制のWOWOWで放映。これでWOWOWへ新たに「5万人」もの人が加入しました。入会キャンペーンやCM以外に、コンテンツに投資して加入者を増やすという実績を残したのです。
■MOZU.TV
https://www.youtube.com/user/mozutv
最近バズった動画広告の例は「CCレモン」。女子高生が忍者のように飛び回りながら追いかけっこをする映像は、最後まで何のコンテンツなのかよくわかりません。多くの人が「面白いよ」とSNSで拡散し、短期間で500万ビューに達しました。時間はCMと比べると長く、最後にようやくでてきた商品の「CCレモン」が吹き出してこぼれてしまったり、結局飲まないなど、加藤氏は清涼飲料水のCMの常識ではありえない内容が許されているという意味でも画期的な動画広告だと言います。
最後に紹介するのは今治のタオルメーカー「七福タオル」のアニメ。商品を宣伝するというより、好きになってもらうことを目的としたコンテンツづくりをしています。
娘と父のやりとりに思わずじっくり見入ってしまうこのアニメは、今までCMでは実現しえなかったコミュニケーションを可能にしています。