【特集】「広告主のお客様である読者に、どんどん誌面参加してもらいます」~発行部数2年で9倍、ママ向けフリーペーパー「クルール」の事例

フリーパーペーの休刊や廃刊が相次いだこの2年の間に、各地で次々刊行し、発行部数を9倍以上に伸ばしている媒体がある。栃木県宇都宮に本拠地をおく子育てママ向けフリーペーパー「クルール」。子育てママ向けという切り口だけを見れば目新しさはないが、注目したいのは、編集部員5名という少数部隊でありながら、たった2年間で静岡、新潟、広島など地方の主要都市で次々刊行していること。果たして何がこのフリーペーパーを全国各地に展開させたのか。「クルール」を発行する株式会社クルール・プロジェ 阿久津智子社長にお話を伺った。


株式会社クルール・プロジェ
代表取締役社長 阿久津智子氏

■創刊から徹底してこだわるのは“ママ目線”
「クルール」の創刊は2005年4月。読者である子育てママの手もとに確実に届けるために、幼稚園や保育園、子育て支援センターなどに配布ルートを確立するところからスタートした。ママ向けフリーペーパーの多くはクーポン券などがついたスポット紹介、いわゆるタウン軸で作られるが、同誌がフォーカスするのはあくまでも“ママライフ”。料理であったり、子育てであったり、暮らしに関することであったりを徹底したママ目線で展開していく。そのため、誌面には読者であるママがモデルとして度々登場するし、原稿自体をママが書いているというコーナーも少なくない。
「一方的に伝えるのではなくて、あくまでも読者であるママが主役。“読んで共感してもらうこと”を、創刊当事から一貫して大切にしています」(阿久津社長)


子育てママ向け情報誌「クルール」

■広告ページもママの目線で徹底的に作りこむ
ママ目線は、広告ページにおいても徹底される。原稿をもらってそのまま掲載という純広は表紙まわりなどのごく一部のみ。中面の広告はほぼすべて、読者であるママやその家族が登場して商品・サービスの魅力、どんなふうに役立つのかを伝えていく。

例えば、栃木県内にある住宅メーカーの広告ページでは、実際にこのメーカーから家を購入した読者を複数人登場させ、購入の決め手についてコメントを掲載。読者は自分と同じママたちが家づくりに何を求めていたのかに興味を持って読み進めていくと、この住宅メーカーの家づくりについても理解を深めているという仕掛け。

「こらちのメーカーとは長くお付き合いいただいていますが、栃木県内でも成長著しい企業で、おそらく建てている棟数が年間で倍々に増えていると思います。もちろん、自社でチラシなども発行されていますが、広告を見て、実際に来て頂いた方に対してどうするのかという企業戦略をきちんと持っていらっしゃいます。広告を出すことでいくら売れるのかという部分も必要だとは思いますが、媒体はあくまでも入り口でしかありません。私たちは、ママたちの口コミを活かしながら、地域や企業の取り組み・商品にママたちを巻き込んでいきたいと思っているんです」(阿久津社長)

■広告ページの7割はすでに決定済み
編集部はもともと販促物などを手がけるデザイン制作を手がけてきた。そのため編集力には自信があったものの、営業力が弱く、創刊号の広告収入はたったの18万円。それが“読者であるママが主役”という編集方針のもと、徹底的なママ目線でのクリエイティブを続けた結果、2年が経過したあたりから広告が入るようになったという。広告ページの住宅枠はすぐに埋まり、今では全体の7割が決定済み。残り3割は、春であれば入園・入学、夏ならレジャー、秋以降は七五三や学習机など、季節的な広告で埋まっていく。中には空きを待つ企業もあるという。
「広告を出してすぐに反響がとれる媒体ではありません。しかし、地方においては特にかもしれませんが、地域との関係をどう作っていくのかという部分に注力している企業がたくさんあります。そういった企業にとっては、私たちのやり方がお役にたてるのだと確信しています」(阿久津社長)

■地方代理店とのネットワークで、総発行部数が38万部に
話を冒頭に戻そう。2年間で9倍という驚異的な部数の伸び、地方での展開はどのようにして可能になったのか?
「ネットワークを広げる営業というのは特にしていないんですが、2年前に静岡の広告代理店からお話を頂いたのがきっかけで、現在は7県で展開しています。4月中には阪神版が創刊になりますし、5月には秋田版も加わる予定です」(阿久津社長)
現在の発行部数は、直営する栃木版が4万部、茨城版が4万5000部。ネットワークとして静岡版5万5000部、新潟版・広島版・札幌版・湘南版がそれぞれ4万部で、これから展開される阪神版6万部と秋田版2万部(予定)が加わると、総発行部数は38万部にもなる。

提携先は、湘南版と秋田版以外はすべて広告代理店。代理店が「クルール」を発行するメリットはどこにあるのだろう?
「これで儲けるというのではなく、営業ツールとして利用いただいているようです」(阿久津社長)
新規で営業をする場合、「代理店の者ですが」と訪問するよりも「ママ向けの媒体を発行しています」と言ったほうが先方に興味を持ってもらえる確立ははるかに高くなるはずだ。媒体がきっかけで取引関係ができれば、本来、代理店が得意とする販促のプロモーションであったり、イベントという部分につなげていくことも容易になる。
また、企画自体が共有化されているので、他の発行地域での成功事例を自分の地域での誌面作りに活かすことができるのも大きな魅力だろう。本部からの共通データの提供もあるため、地域版では地域の情報と広告に集中できる。つまり、「クルール」全地域版の過去号は、そのまますべてがパターン集となり、営業の現場で仕上がり見本として利用されてく。
「もちろん“読者であるママが主役”という編集方針も共有しています。幼稚園など子どもを介して配布していく媒体なので、消費者金融や美容整形などグレーなイメージの広告はNGというようなルールもあります。今後も、営業力があって、こうした方針にご理解いただけるところと一緒に取り組んでいきたいと思っています」(阿久津社長)

■ママの自己実現をサポートする「ママ’sカレッジ」
同社では、媒体の発行だけでなく「ママ’sカレッジ」という託児付きの講座も開催している。基本は、何かを教えたいママが講師となり知りたいママに教えていくというスタイル。告知・集客は「クルール」上で行うが、1回12~15講座の告知に200~250人からの応募がある。

さらには、協賛イベントとして企業とタイアップした講座も企画される。

「子供を育てているので社会との接点は少ないけれども、自らの自己実現について考えているママはたくさんいます。その自己実現の機会を企業とタイアップすることで叶えませんか、というのが主旨です。企業と消費者という立場で離れていたものが、自己実現したいママを間に挟むことによって、つながるんです」(阿久津社長)

具体的な例でいうと、生命保険の見直しをテーマとした講座がある。講師として話をするのは保険会社の社員だが、お菓子作りに長けたママがホステスとなって間に入る。テーマが堅いだけに講座だけではなかなか人が集まらないが、手作りのケーキを囲みながらという趣向にすることで集客が可能になる。

「頑張りたいという意欲のあるママは行動力もあり、ある意味インフルエンサーになっていくと思います。弊社ではそういう影響力のあるママたちをどんどん発掘して、企業と結び付けていきたいと思っています。ネット社会が進めば進むほどリアルなコミュニケーションの重要性は増していくと思うので、将来的には「ママ’sカレッジ 」を店舗化するという構想もあります。今後については、子育て層をお客様とする企業に対して独自の商品開発をしたり、ウェブにも力を入れいく予定です。子どもとそのママたちのために、地域や企業は何ができるのかを、地域単位で共に考えていきたいと思っています」(阿久津社長)

■読者と広告主、メディア間の対話はネットソーシャルメディアだけのものではない
今回の取材を通して、阿久津社長が終始口にしていた「読者の参加」。メディアではよく使われる言葉で、読者モデルやモニター、口コミなどの形で今や雑誌などでも一般的に行われている。一方で、クルールの言う「読者の参加」は広告への読者の積極的・友好的な参加という、これまでとは少し違ったものだった。その地域で暮らす読者やそのファミリーが、地域の企業に訪問したりインタビューに答えたりする形で広告に出演、自分たちの声で積極的なメッセージを発信している。また、「ママ’sカレッジ」では、一般のママが講師をつとめる講座を開講、子育てをしながら自己実現に向けて積極的に動くママを支援している。ママ講師と企業のタイアップセミナーなども行われ、メディアと読者・広告主全てにメリットある取り組みとなっている。

こうした生活者が主役のコミュニティとしては現在、SNSやソーシャルアプリ、Twitterなどのネットソーシャルメディアが話題になることが多い。広告が効かなくなったと言われている今、生活者を巻き込んだマーケティングでメッセージを伝えようと各企業ではネットソーシャルメディアを使った企画を行っている。「クルール」はフリーペーパーというリアルメディアでありながら、あるいはリアルメディアの特長を活かし、誌面というネットにはないインパクトを持ったクリエイティブの上で、生活者が出演して企業とコラボレートする“媒体”の役割を果たしている。

急速に部数を伸ばし、かつ数カ月先までは広告枠が空いていないという人気の背景には、こうした理由があるのではないか。(杉山 宮崎)

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